T2K実験がCP対称性の破れの探索結果を公表

7月 4, 2016

新たなデータでニュートリノと反ニュートリノのニュートリノ振動確率の違いを探る

T2K実験グループは、ロンドンで開かれた第27回ニュートリノ国際会議(NEUTRINO2016)において、(反)ニュートリノ振動に関する新しい結果を公表しました。新たなデータでも、大気ニュートリノ振動に対応する混合角(θ23)による混合が最大であり、CP非対称性をおこす位相(δCP)が非対称性最大の値(-π/2)に近く、ニュートリノの質量順序が通常順序である場合に最も適合するという、以前の結果と同じ傾向が見られています。

前回結果を発表した2015年時点に比べ、反ニュートリノのデータ量をほぼ倍に増やしたことに加え、ニュートリノと反ニュートリノのデータを同時に使う新たな手法での解析を行いました(図1)。ニュートリノにCP対称性の破れがあれば、ニュートリノと反ニュートリノでニュートリノ振動の確率が異なることが予想されます。今回のデータで観測された反電子ニュートリノ出現の事象率は、電子ニュートリノ出現の事象率からCP対称性が保存されていると仮定して予想したものよりも小さいものでした。

原子炉ニュートリノ実験による反電子ニュートリノ消失測定の結果と組み合わせて、3世代のニュートリノ振動の枠組みで解析を行った場合、T2Kの現在のデータ量でのδCP の90%信頼区間の大きさは、真のδCP の値と質量順序によりますが、2π(つまり可能なδCPの値がすべて含まれる)から1π程度と見積もられていました。実際のデータを解析した結果、δCPの値の90%信頼区間は図2に示すように通常質量順序(逆質量順序)に対して[–3.02; –0.49] ([–1.87 ; –0.98])となりました。CP対称性が保存されるδCPの値(δCP=0とδCP=π)は、ふたつともこの区間の外にあります。

今回の新しい結果は、標的に照射される陽子数(protons on target, POT)としてT2K実験に対し現在認められている量の約20%にあたる、1.44×1021POTに相当するデータをもとにしたものです。今後、J-PARCメインリングとニュートリノビームラインの増強によりビーム強度を向上させ、2021年ごろには現在の目標である7.8×1021 POTに到達する予定です。さらに、T2K実験グループは、次世代の実験が開始される予定の2025年ごろまでに20×1021 POTを収集し、CP対称性の破れを3σの感度で発見することを目指して実験を延長することを提案しています。

CP対称性の破れは、宇宙初期のビッグバンの際には物質と反物質が等量作られたはずなのに現在の宇宙にはなぜ物質しか残っていないのか、という現代の科学で最も深遠な問いの一つに対する答えの鍵を握っているかもしれません。今回のT2K実験の新しい結果は、まだ統計的に有意ではないとはいえ、我々の宇宙に対する理解にニュートリノがこれからも新たなブレークスルーをもたらし続けてくれることを期待させます。

新しいT2K実験の結果に関する詳細や今後の実験の見通しに関しては、ニュートリノ2016国際会議での発表資料(英語)をご覧ください。

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図1: T2K実験の後置検出器(スーパーカミオカンデ)で観測されたニュートリノ(左)と反ニュートリノ(右)の事象の再構成されたニュートリノエネルギー分布。それぞれの図で、黒点はT2K実験の(反)ニュートリノデータを、黒線はニュートリノ振動がなかった場合の予想を、青線は最もデータをよくフィットするニュートリノ振動パラメータを仮定した場合の予想。

Figure 2. Negative log likelihood values as a function of the CP violating phase parameter δCP; The black (red) curves show the case for the normal (inverted) mass ordering; the black (red) vertical lines with hatch marks show the 90% CL allowed regions for the normal (inverted) mass ordering.  This figure shows the result for T2K neutrino and antineutrino data, combined with reactor antineutrino results.  The CP conserving values (δCP =0 and δCP= π) lie outside the 90% region.

図2:CP対称性を破る位相のパラメータδCPに対する、negative log likelihoodの値。黒(赤)の曲線は通常質量順序(逆質量順序)の場合を示す。ハッチのついた黒(赤)の縦線は通常質量順序(逆質量順序)に対する信頼度90%の許容区間を表す。T2K実験のニュートリノと反ニュートリノのデータを、原子炉反ニュートリノ実験の結果と合わせて得られたもの。CP対称性が保存されるδCPの値(δCP=0とδCP=π)は90%信頼区間の外にある。