スーパーカミオカンデのイベントディスプレイ

スーパーカミオカンデのイベントディスプレイをどうやって見ればよいか

スーパーカミオカンデの水チェレンコフ検出器中での,電子ニュートリノらしい“イベント”(反応)の例を下図に示します。

スーパーカミオカンデ検出器には11,000個以上もの光電子増倍管が並べられています。それぞれの光電子増倍管の直径は50cmになります。イベントディスプレイは内側検出器の光電子増倍管の配列を記した図になっており,任意のイベントに対してそれぞれの管が受け取る光の強さを表しています。

上と下の蓋を切って後ろに折り,さらに胴を切って平らにした缶詰をイメージしてください。イベントディスプレイはこの缶詰と同じです。点はそれぞれ一つの光電子増倍管を表し,その色はそれぞれの光電子増倍管が集めた光を相対的に表しています。詳しくは,この光は表示データが記録される1.3マイクロ秒の時間間隔の間に光電子増倍管によって生み出された電子の量に対応しています。右上にある小さな図は,1,800個のみの光電子増倍管を持つ外側検出器に対する同様の見開き図を表しています。

もし左上にある情報にランの状態が“normal”と表示されているならば,それはデータ収集が実行されている状態です。ときどき“calibration”または“test”と表示されることがありますが,それは研究者が検出器やデータ収集回路に関して何らかの作業を行っていることを意味しています。

上の例では,電子ニュートリノによって生成された電子が水の中で散乱し,不鮮明なチェレンコフ放射光の輪が出来上がっています。この輪の位置と形状から電子の方向を知ることができます。さらに電子の方向は,電子を生成した入射ニュートリノの方向にとても近いことが言えます。(もし輪が鮮明な輪郭をしていれば,そのイベントは“ミューオンらしい”と判断されます。)コンピューターアルゴリズムは,それぞれのイベントを電子らしいかまたはミューオンらしいかを評価しますが,いくらかのイベントはあいまいで,研究者が確認する必要が生じることもあります。

短い時間間隔の間に非常に多くの光電子増倍管で信号が観測されたら,一つの“イベント”として記録されます。すべての光電子増倍管のデータは,後の分析のために記録されます。スーパーカミオカンデ検出器は非常に高度な電子回路によって構成されており,一つのイベントを記録した後,一切の不感時間を作らずに次のデータを取ることが可能です。つまり短時間の一連のイベントを記録することが可能だということです。数分から数時間後,オフラインのコンピューターアルゴリズムを使って,観測された光のパターンがニュートリノ反応に対応しているかどうかを確認するためにイベントデータをチェックします。

記録されたほとんどのイベントはニュートリノによるものではなく,1000メートルもの厚さの地面を貫通したミューオンによるものです。ミューオンは上空大気でパイ中間子や他の短寿命の素粒子の崩壊によってニュートリノとともに作られるため,これらミューオンもまた興味深い対象です。さらに,ミューオンを使って検出器の状態を継続的にチェックすることができます。

一般向けのリアルタイム・イベントディスプレイはスーパーカミオカンデで記録された全てのイベントを表示しているのではなく,何秒かごとのランダムなイベントのみを表示しています。実験の遂行のためにスーパーカミオカンデで働く研究者は,もう一つの図に切り替えることができ,その図には光信号の相対的な到着時間が表されています。また,スーパーカミオカンデで1年あたり記録される何百万ものイベントの中のほんの数百のイベントしかJ-PARCから来たニュートリノによるものでありません。ビーム由来のニュートリノをすぐに識別する方法はありません。ビーム由来のニュートリノがスーパーカミオカンデを通り過ぎたときの非常に短い時間間隔の間(J-PARCのビーム運転中の約3秒ごとに0.5マイクロ秒間)に,ある特定のイベントが起こったかどうかを判断するためには,データを改めて注意深く解析する必要があります。