T2K実験国際共同研究グループは、本日、ストックホルムで開催中の欧州物理学会において、ミューニュートリノが飛行中に電子ニュートリノへ変化する電子ニュートリノ出現現象が存在することを示す決定的な測定結果が得られたことを発表しました。同研究グループは、2011年に当時ニュートリノ振動の新たな型だったこの転換過程を示唆する最初の結果を発表しましたが、今回はその後に得られた3.5倍のデータを加えて、この転換過程が確かに存在することを確立しました。背景事象の統計的な揺らぎのみによって今回の電子ニュートリノの超過を観測する確率は1兆分の1 (1/1,000,000,000,000) 以下で、これはそのような可能性を7.5σの統計的有意度で排除できることを意味します。今回のT2K実験の観測は、検出地点における特定フレーバーのニュートリノの出現が、その生成地点ではそれとは異なるフレーバーのニュートリノから来ていることを明確に観測したと言う点で初めての観測になります。
T2K実験では、ミューニュートリノビームが茨城県東海村のJ-PARC大強度陽子加速器施設で生成されます。ニュートリノビームは生成直後にJ-PARC施設内の前置検出器でモニターされるとともに、東海村から295km離れた岐阜県飛騨市神岡町の巨大な地下検出器スーパーカミオカンデに向けて飛行します。スーパーカミオカンデのデータのうち、J-PARCからのビームタイミングと同期したものを解析したところ、この電子ニュートリノ出現現象という新たな過程が無い場合に期待される数(4.6事象)よりも多くの電子ニュートリノ(28事象)が観測されました。
ニュートリノ振動は、ニュートリノが長距離を飛行する間に現れる量子力学的干渉の効果によって、その種類が変わってしまうという現象です。今回ミューニュートリノから電子ニュートリノへと変化するという新たな型のニュートリノ振動を観測したことは、物質と反物質とで適用できる物理法則が異なるCP対称性の破れに関する新たな研究につながるものです。CP対称性の破れは、これまでのところクォークでしか観測されておらず、その発見と研究に対して1980年と2008年にノーベル物理学賞が授与されています。現在観測される宇宙は物質でのみ満たされており、有意な量の反物質は存在していません。このことは今日の自然科学における最も深遠な謎の一つですが、宇宙の非常に初期におけるニュートリノのCP対称性の破れがその原因になったという可能性が指摘されています。今回T2K実験がCP対称性の破れに感度のある電子ニュートリノ出現型のニュートリノ振動を確立したことによって、ニュートリノのCP対称性の破れの探索は、今後何年かにわたって自然科学の主要な探究対象になるでしょう。T2K実験は今後ニュートリノのCP対称性の破れに関する研究を主導していくために、反ニュートリノビームを用いた測定を含め、現在のおよそ10倍のデータを取得することを計画しています。
T2K実験は国際共同実験として結成され運営されています。現在のT2K実験グループは11カ国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ポーランド、ロシア、スイス、スペイン、イギリス、アメリカ)59研究機関からの400人を超える研究者からなります。実験は日本の文部科学省から主な支援を受けており、さらに以下の実験参加国の機関から追加の支援を受けています。
カナダ自然科学・工学研究会議(NSERC)、カナダ国立研究機構(NRC) 、カナダ・イノベーション基金(CFI) 、フランス原子力庁(CEA) 、フランス国立科学研究センター(CNRS/IN2P3)、ドイツ研究振興協会(DFG)、 イタリア国立核物理学研究所(INFN) 、ポーランド科学・高等教育省、ロシア科学アカデミー(RAS)、ロシア基礎科学財団(RFBR)、ロシア教育科学省、スペイン科学イノベーション省(MICINN) 、スペイン国立素粒子宇宙核物理研究センター(CPAN) 、スイス国立科学財団(SNSF) 、スイス連邦教育研究管轄局(SER)、イギリス科学技術施設会議(STFC)、アメリカ合衆国エネルギー省(DOE)
2011年3月には、東日本大震災によってJ-PARCの加速器施設は深刻な被害を受け、T2K実験のデータ収集も唐突に打ち切られましたが、その後のJ-PARCスタッフの方々による揺るぎなく絶え間ない努力と、T2K実験に再び高品質なビームを提供してくれた施設運営によって、今回の発見に至ることができました。
この発表に関して、さらに詳しい情報(画像含む)はここを参照してください。
また、高エネルギー加速器研究機構によるプレス発表はここにあります。
本件に関する問い合わせ先:
日本および全般:
高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所
教授 小林 隆 (T2K実験グル―プ代表者)
takashi.kobayashi@kek.jp, 029-864-5414
アメリカおよび全般:
State University of New York at Stony Brook(Stony Brook, NY, USA) 、東京大学 Kavli IPMU
Prof. Chang Kee Jung (T2K実験グループ共同代表者)
chang.jung@stonybrook.edu, +1 631-632-8108/8095
カナダ:
University of British Columbia (Vancouver, Canada)
Prof. Hiro Tanaka
tanaka@phas.ubc.ca, +1 778-772-3690
フランス:
LPNHE-Paris (IN2P3, France) (Paris, France)
Dr. Jacques Dumarchez
jacques.dumarchez@cern.ch, +33 1 44 27 48 42
CEA/IRFU
Dr. Marco Zito (Saclay, France)
marco.zito@cea.fr, +33 6 84 61 09 51
ドイツ:
RWTH Aachen University(Aachen, Germany)
Prof. Achim Stahl
stahl@physik.rwth-aachen.de, +49 241 80 27301
イタリア:
INFN Sezione di Bari(Bari, Italy)
Dr. Maria Gabriella Catanesi
gabriella.catanesi@cern.ch, +41 764871532
ポーランド:
NCBJ, Warsaw(Warsaw, Poland)
Prof. Ewa Rondio
Ewa.Rondio@fuw.edu.pl, +48 691 150 052
ロシア:
INR (Moscow, Russia)
Prof. Yuri Kudenko
kudenko@inr.ru, +7-495-8510184
スペイン:
IFAE, Barcelona (Barcelona, Spain),
Prof. Federico Sanchez
fsanchez@ifae.es, +34 93 5812835
IFIC, Valencia (Valencia, Spain)
Prof. Anselmo Cervera
anselmo.cervera@cern.ch
スイス:
ETHZ (Zurich, Switzerland)
Prof. Andre Rubbia
andre.rubbia@cern.ch, +41 44 633 3873
Université de Genève
Prof. Alain Blondel
alain.blondel@unige.ch, +41 76 487 4058
イギリス:
STFC/RAL/Daresbury Laboratory/Oxford University (Oxford, U.K.)
Prof. Dave Wark
david.wark@stfc.ac.uk, +44 7788186085