T2K前置ニュートリノ検出器アップグレードプロジェクト開始

2月 16, 2017

T2K 実験、CP 対称性の破れの探索に関する新たな結果をICHEP国際会議で発表

8月 6, 2016

ニュートリノの「CP 対称性の破れ」の解明に第一歩を踏み出す

T2K 実験(東海-神岡間長基線ニュートリノ振動実験)国際共同研究グループ(以下、T2K コラボレーション)は、反ミュー型ニュートリノから反電子型ニュートリノへのニュートリノ振動について、2014 年の実験開始から取得した観測実験データをまとめ、同研究グループが 2010 年から 2013 年までの実験で明らかにしたミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへのニュートリノ振動の結果と比較し、ニュートリノと反ニュートリノで、電子型ニュートリノへの出現が同じ頻度では起きない、すなわち、「CP 対称性の破れ」があることを示唆する結果を得ました。

「ニュートリノと反ニュートリノのニュートリノ振動の確率が違う」ということが事実であれば、万物を構成する素粒子の仲間であるクォークでは破れている「CP 対称性」がニュートリノでも破れていることを意味するともに、「宇宙の始まりであるビッグバンで物質と反物質が同数生成されたのに、現在の宇宙には反物質はほとんど存在していない」という宇宙の根源的な謎を解明するうえで大きなヒントとなります。

T2K実験では、2014年より反ニュートリノを生成する実験を開始し、2016年5月までに、ニュートリノデータとほぼ同量の反ニュートリノデータを得ることができ、これまでの全データの解析の最新結果を、8月7日(日本時間)に米国シカゴで開催される高エネルギー物理学に関する国際会議(ICHEP)にて公表するに至りました。

T2K 実験が 2010 年から 2016 年 5 月までのニュートリノビームを生成した期間のデータから、「CP 対称性の破れがない」と仮定した場合の電子型ニュートリノの予想出現回数を求めたところ、約 24 個と推定されました。それに対して、スーパーカミオカンデ検出器で実際に観測された電子型ニュートリノは 32 個と、予測値と異なっていました。

また、T2K 実験が 2014 年から 2016 年 5 月までの反ニュートリノビームを生成した期間に、「CP 対称性の破れがない」と仮定した場合の反電子型ニュートリノの予想出現数は、約 7 個でした。それに対して、スーパーカミオカンデ検出器での実際の観測では、4 個の反電子型ニュートリノしか観測されませんでした。

これらの観測数と予想値の違いに加えて、ニュートリノ振動を起こさなかったミュー型ニュートリノ・反ミュー型ニュートリノの観測数や、観測されたそれぞれのニュートリノ・反ニュートリノのもつエネルギーなどの測定値も考慮し、総合的な解析を行いました。また、原子炉ニュートリノ実験の結果も用いて推定した「CP対称性の破れがない」と仮定した場合の予想と比較し、電子型ニュートリノ出現現象に現れた「CP対称性の破れ」の大きさを測定しました。その結果、「ニュートリノと反ニュートリノで電子型ニュートリノ出現が同じ頻度で起きる」という仮説は90%の確率で棄却されました。すなわち、「ニュートリノと反ニュートリノで電子型ニュートリノ出現が同じ頻度では起きない可能性が高く、CP対称性の破れがある」ということが示唆されました。

ただし、90%という信頼度は、実験の最終結果として結論づけるには統計的に十分な有意水準とは言えません。今後データ量を増やしての検証を要しますが、ニュートリノと反ニュートリノが違う性質を持つ可能性を示唆する興味深い結果です。

現時点でのデータ収集量は、T2Kコラボレーションの当初の実験提案の約2割に到達した所です。今後、J-PARCの加速器やニュートリノビームラインの性能向上によるニュートリノビームの強度増強をはかり、より高い有意水準での「CP対称性の破れ」の検証を行なう予定です。また、T2Kコラボレーションは、J-PARCのさらなる性能向上の可能性を考慮して当初の実験提案の2.5倍のデータ(これまで取得したデータの約13倍)を収集し、さらにデータ解析の改良をすることで、ニュートリノにおける「CP対称性の破れ」を3σ(=有意水準99.7% )の信頼度で検証することを目指しています。さらに、米国NOvA実験との相互検証も可能であり、今後、数年程度のタイムスケールでニュートリノ振動の新たな知見が得られると期待できます。

T2K実験がCP対称性の破れの探索結果を公表

7月 4, 2016

新たなデータでニュートリノと反ニュートリノのニュートリノ振動確率の違いを探る

T2K実験グループは、ロンドンで開かれた第27回ニュートリノ国際会議(NEUTRINO2016)において、(反)ニュートリノ振動に関する新しい結果を公表しました。新たなデータでも、大気ニュートリノ振動に対応する混合角(θ23)による混合が最大であり、CP非対称性をおこす位相(δCP)が非対称性最大の値(-π/2)に近く、ニュートリノの質量順序が通常順序である場合に最も適合するという、以前の結果と同じ傾向が見られています。

前回結果を発表した2015年時点に比べ、反ニュートリノのデータ量をほぼ倍に増やしたことに加え、ニュートリノと反ニュートリノのデータを同時に使う新たな手法での解析を行いました(図1)。ニュートリノにCP対称性の破れがあれば、ニュートリノと反ニュートリノでニュートリノ振動の確率が異なることが予想されます。今回のデータで観測された反電子ニュートリノ出現の事象率は、電子ニュートリノ出現の事象率からCP対称性が保存されていると仮定して予想したものよりも小さいものでした。

原子炉ニュートリノ実験による反電子ニュートリノ消失測定の結果と組み合わせて、3世代のニュートリノ振動の枠組みで解析を行った場合、T2Kの現在のデータ量でのδCP の90%信頼区間の大きさは、真のδCP の値と質量順序によりますが、2π(つまり可能なδCPの値がすべて含まれる)から1π程度と見積もられていました。実際のデータを解析した結果、δCPの値の90%信頼区間は図2に示すように通常質量順序(逆質量順序)に対して[–3.02; –0.49] ([–1.87 ; –0.98])となりました。CP対称性が保存されるδCPの値(δCP=0とδCP=π)は、ふたつともこの区間の外にあります。

今回の新しい結果は、標的に照射される陽子数(protons on target, POT)としてT2K実験に対し現在認められている量の約20%にあたる、1.44×1021POTに相当するデータをもとにしたものです。今後、J-PARCメインリングとニュートリノビームラインの増強によりビーム強度を向上させ、2021年ごろには現在の目標である7.8×1021 POTに到達する予定です。さらに、T2K実験グループは、次世代の実験が開始される予定の2025年ごろまでに20×1021 POTを収集し、CP対称性の破れを3σの感度で発見することを目指して実験を延長することを提案しています。

CP対称性の破れは、宇宙初期のビッグバンの際には物質と反物質が等量作られたはずなのに現在の宇宙にはなぜ物質しか残っていないのか、という現代の科学で最も深遠な問いの一つに対する答えの鍵を握っているかもしれません。今回のT2K実験の新しい結果は、まだ統計的に有意ではないとはいえ、我々の宇宙に対する理解にニュートリノがこれからも新たなブレークスルーをもたらし続けてくれることを期待させます。

新しいT2K実験の結果に関する詳細や今後の実験の見通しに関しては、ニュートリノ2016国際会議での発表資料(英語)をご覧ください。

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図1: T2K実験の後置検出器(スーパーカミオカンデ)で観測されたニュートリノ(左)と反ニュートリノ(右)の事象の再構成されたニュートリノエネルギー分布。それぞれの図で、黒点はT2K実験の(反)ニュートリノデータを、黒線はニュートリノ振動がなかった場合の予想を、青線は最もデータをよくフィットするニュートリノ振動パラメータを仮定した場合の予想。

Figure 2. Negative log likelihood values as a function of the CP violating phase parameter δCP; The black (red) curves show the case for the normal (inverted) mass ordering; the black (red) vertical lines with hatch marks show the 90% CL allowed regions for the normal (inverted) mass ordering.  This figure shows the result for T2K neutrino and antineutrino data, combined with reactor antineutrino results.  The CP conserving values (δCP =0 and δCP= π) lie outside the 90% region.

図2:CP対称性を破る位相のパラメータδCPに対する、negative log likelihoodの値。黒(赤)の曲線は通常質量順序(逆質量順序)の場合を示す。ハッチのついた黒(赤)の縦線は通常質量順序(逆質量順序)に対する信頼度90%の許容区間を表す。T2K実験のニュートリノと反ニュートリノのデータを、原子炉反ニュートリノ実験の結果と合わせて得られたもの。CP対称性が保存されるδCPの値(δCP=0とδCP=π)は90%信頼区間の外にある。

J-PARCニュートリノビームの強度が400kWを超える

5月 31, 2016

T2K実験にニュートリノおよび反ニュートリノを供給するJ-PARCニュートリノビームの強度が400kWを超えました。メインリング加速器の新たな運転パラメータにより,400kWを超えるビーム強度での運転が達成されました。T2K実験は5月23日から27日まで400kW超のビーム強度で安定にデータ収集を行い,今年度前半の実験を終えました。

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400kWを超えるビーム強度での運転時の,J-PARC加速器運転状況Webページのスナップショット。

T2K実験での成果で2名が博士論文賞を受賞

5月 31, 2016

T2K実験での成果により,2名の研究者が博士論文に対する賞を受賞しました。

Patrick de Perio博士は,博士論文 “Joint Three-Flavour Oscillation Analysis of νμ Disappearance and νe Appearance in the T2K Neutrino Beam” により,カナダ物理学会(CAP)の素粒子物理学領域における博士論文賞を受賞しました。トロント大学で学位を取得したde Perio博士は,新しく創設されたこの賞の最初の受賞者となりました。de Perio博士は現在コロンビア大学に所属し,イタリアで行なわれている,暗黒物質を探索するXENON実験に参加しています。

家城佳(いえき・けい)博士は,博士論文 “Observation of νμ  νe oscillation in the T2K experiment”(T2K実験におけるνμ→νe振動の発見)により第10回(2016年)日本物理学会若手奨励賞を受賞しました。家城博士は京都大学で学位を取得し,現在は東京大学素粒子物理国際研究センターに所属して,スイス・PSI研究所で行なわれている,ミューオンの稀崩壊を探索するMEG II実験に参加しています。 

小中哲博士がカナダのVogtメダルを受賞

5月 31, 2016

カナダ・TRIUMF研究所の小中哲(こなか・あきら)博士が,素粒子物理の発展に対する貢献により,2016年のCAP-TRIUMF Vogt メダルを受賞しました。受賞理由は,博士の「コラボレーションの確立におけるリーダーシップを含む,T2K長基線ニュートリノ振動実験に対する顕著な貢献」によるものです。

小中博士に対するメダルは2016年6月16日に,オタワで開かれるCAP Congress(カナダ物理学会大会)において,2015年ノーベル物理学賞受賞者のArt McDonald博士から授与されます。

T2K実験の延長を検討中

4月 14, 2016

T2K実験グループは,~1.3MWのビーム強度で実験期間を延長することにより,CP非保存現象の探索をはじめとする物理に対する感度をさらに向上させることを検討しています。2016年1月13-15日に行われたJ-PARCの実験プログラム諮問委員会(PAC)には,この延長に関する関心表明書(Expression of Interest)が提出されました。

J-PARCメインリングのアップグレードが承認される

4月 14, 2016

J-PARCでメインリングを増強するための新たな施設の建設が承認されました。この施設には,メインリングの繰り返しの速さを約2倍にするための新型の電源が設置される予定です。これにより,T2K実験へ供給されるビーム強度は750kWに増強され,さらには将来1MWを超える可能性もあるとみられています。

西川公一郎博士とT2Kコラボレーションのメンバーがブレークスルー賞を受賞

11月 9, 2015

西川公一郎博士とT2Kコラボレーションのメンバーが、ニュートリノ振動の発見と研究における功績に対し、基礎物理学ブレークスルー賞を受賞しました。

ブレークスルー賞財団によって授与されたこの賞は、「ニュートリノ振動という根本的に重要な発見をし、素粒子標準模型を遥かに超える新しいフロンティアを開いたことに対して」贈られました。賞金は300万米ドルで、他の4つの国際実験コラボレーション –  Daya Bay(ダヤベイ), KamLAND(カムランド), SNO(スノー), Super-Kamiokande(スーパーカミオカンデ )- と分かち合います。T2KコラボレーションはK2Kコラボレーションと共に名前が挙げられ、西川博士はT2KコラボレーションとK2Kコラボレーションの創設代表者を務めました。

授賞式はカリフォルニア州モフェットフィールドのNASAエイムズ研究センターで行われました。式はアメリカのナショナルジオグラフィックチャンネルで生中継され、コメディアンのセス・マクファーレンが司会を務めました。1時間の短縮版が11月29日午後7時(米国東部標準時)にFOXチャンネルで放送されます。

T2K実験は、日本で行われている加速器を用いた長基線ニュートリノ振動実験です。J-PARCの陽子加速器のメインリングを用いて強力なミューニュートリノビームを生成し、そのニュートリノは、J-PARCから295km離れた池の山の地下深くにある神岡鉱山に設置されたスーパーカミオカンデに向けて射出されます。T2K実験への表彰は、ミューニュートリノビーム中での電子ニュートリノ出現現象の観測に対して行われ、それはニュートリノフレーバーが出現する現象の初めての観測でもありました。この発見は、ニュートリノ振動とその反粒子(反ニュートリノ)の振動の違い(CP非保存と呼ばれる)を調べる研究の基を築き、さらにそれは宇宙においてどうやって物質が優勢になったのかという問題を解明することになるかもしれません。T2K実験は反ニュートリノ振動を調べるために、反ニュートリノビームのデータ収集を開始しました。

当時のT2Kコラボレーションには、12か国64機関から500人を超えるメンバーが参加していました。以下は参加機関です。
アルバータ大学、ブリティッシュ・コロンビア大学、レジーナ大学、トロント大学、TRIUMF、ビクトリア大学、ウイニペグ大学、ヨーク大学(カナダ)
IPN リヨン(IN2P3)、IRFU サクレー研究所、LLR エコール・ポリテクニーク(IN2P3)、
LPNHE・UPMC・パリ(フランス)
RWTH アーヘン大学(ドイツ)
INFN バリ、INFN ローマ、ナポリ大学 INFN、パドヴァ大学 INFN(イタリア)
ICRR 神岡宇宙素粒子実験施設、ICRR 宇宙ニュートリノ観測情報融合センター、東京大学宇宙線研究所、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構、東京大学、高エネルギー加速器研究機構、神戸大学、京都大学、宮城教育大学、岡山大学、大阪市立大学、首都大学東京(日本)
全南大学、東新大学、ソウル大学(韓国)
IFJ PAN クラコフ、NCBJ ワルシャワ、シレジア大学カトワイス、ワルシャワ工科大学、ヴロツワフ大学、ワルシャワ大学(ポーランド)
INR(ロシア)
IFAE バルセロナ、IFIC バレンシア(スペイン)
ETH チューリッヒ、ベルン大学、ジュネーブ大学(スイス)
インペリアル・カレッジ・ロンドン、オックスフォード大学、ロンドン大学クイーンメアリー、STFC ダレスベリー研究所、STFC ラザフォード・アップルトン研究所、ランカスター大学、リバプール大学、シェフィールド大学、ワーウィック大学(イギリス)
ボストン大学、ブッルクヘブン国立研究所、コロラド州立大学、ドューク大学、ルイジアナ州立大学、ミシガン州立大学、ストーニーブルック大学、カリフォルニア大学アーバイン、コロラド大学、ピッツバーグ大学、ロチェスター大学、ワシントン大学(アメリカ合衆国)

T2K実験は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と東京大学宇宙線研究所(ICRR)が
共同でホスト研究機関を務めています。

さらに詳しい情報は、https://breakthroughprize.org をご覧ください。

梶田隆章教授が2015年ノーベル物理学賞を受賞

10月 7, 2015

スウェーデン王立科学アカデミーは、T2K実験コラボレーションメンバーの梶田隆章教授に2015年のノーベル物理学賞を授与しました。梶田教授は東京大学宇宙線研究所の所長を務めており、「ニュートリノに質量があることを示すニュートリノ振動の発見」に対してアーサー・マクドナルド教授(クイーンズ大学)と賞を分け合いました。

梶田教授のノーベル賞受賞の成果はスーパーカミオカンデで得られました。スーパーカミオカンデは、大気ニュートリノ振動を発見した巨大な水チェレンコフ地下検出器で、T2K実験の後置検出器としての役割も果たしています。宇宙線が地球の大気中で反応を起こすと電子型とミュー型の両方のニュートリノが生成されますが、スーパーカミオカンデはそれらを高い精度で判別することができます。上方から飛来する電子型ニュートリノの割合は、下方からやってくる電子型ニュートリノの割合と同じだったのですが、梶田教授と共同研究者たちは、下方から、つまり地球を通り抜けて長い距離をやって来るミュー型ニュートリノは、上方から飛来するミュー型ニュートリノよりもずっと少ないことを発見しました。今では我々は、ミュー型ニュートリノがタウ型ニュートリノに変化し、そのニュートリノのエネルギーが重いタウ粒子を生成するには低すぎるために、それらは反応を起こさないのだということを知っています。この現象はニュートリノ消失現象と呼ばれ、梶田教授とスーパーカミオカンデによるその発見は素粒子物理学の新たな領域の幕開けになったと考えられています。そして、T2K実験では今まさにその領域の研究を続けているのです。

梶田先生、おめでとうございます。