ニュートリノの検出

ニュートリノは,実験において反応が起こった場合にその存在を検出することしかできません。ニュートリノには次の2種類の反応があります。

  • 荷電カレント反応: ここではニュートリノは同一タイプの荷電レプトンに転換します。(例えば,逆β崩壊  νe + p → n + e+)  実験では荷電レプトンを検出します。
  • 中性カレント反応: ここではニュートリノはニュートリノのまま残りますが,それが反応したものにエネルギーと運動量を受け渡します。これによって標的が反跳(例えば,ニュートリノ-電子散乱 ν + e → ν + e) したり,破砕(例えば 2H + ν → p + n + ν)したりするので,実験ではこのエネルギー移行を検出します。

荷電カレント反応はW±粒子の交換を通して起こり,中性カレント反応はZ0粒子の交換を通して起こります。

原理的に,荷電カレント反応は研究を行いやすく,なぜなら電子とミューオンは粒子検出器中で特徴的な信号を残し,したがって非常に同定がしやすいからです。それらはニュートリノの“フレーバータグ”を行うことができる利点もあります。すなわち,もし電子が生成されればそれは電子ニュートリノから来ていることが分かります。しかし,レプトンの質量がE = mc2にしたがって生成できるためには十分なエネルギーを持っている必要があります。このことは,非常に低いエネルギーのニュートリノ(例えば太陽ニュートリノや原子炉ニュートリノ)に対しては,荷電カレント反応は電子ニュートリノにのみ起こることを意味します。

それぞれの研究の要求に応じて,様々な検出器技術が長年にわたりニュートリノ実験で使われてきました。ニュートリノ実験に望ましい特性として典型的なものを以下に挙げます。

  • 低いエネルギー閾値: これにより,低エネルギーニュートリノ(特に太陽ニュートリノ)を検出して研究できるようになります。
  • 高い角度分解能: これにより,検出される粒子の方向が精度よく最構成されるようになります。(特に天体物理的ニュートリノの研究には望ましい特性です。)
  • 高い粒子識別能力: これにより,電子とミューオンがよく分離されるようになります。(特にニュートリノ振動実験には必要不可欠な特性です。)
  • 高いエネルギー分解能: これにより,ニュートリノのエネルギーを再構成することができるようになります。(振動測定や宇宙物理学にとって有用です。)
  • 高い時間分解能: これにより,過渡的な信号の時間発展の様子を調べることができるようになります。(これは超新星ニュートリノには必要不可欠で,その他の天体物理起源のニュートリノにも重要です。)
  • 電荷識別能力: これにより,レプトンと反レプトンが区別できるようになります。(ニュートリノファクトリーの実験に必要不可欠な特性です。)

1つの実験にこれら全ての特性を備えるのは不可能です。例えば,非常に低いエネルギー閾値を持つ実験は,あまりよい角度分解能やエネルギー分解能を持てないことが多々あります。そこでニュートリノ物理の研究者は,自らが行おうとする特定の実験に対して最も適切な技術を選択しています。

放射化学的実験

最も低いエネルギー閾値は放射化学的実験で得られます。そこでは,ニュートリノは原子に捕獲され,その後(荷電カレント反応である逆β崩壊を通して)他の元素に転換されます。この手法で長年行われてきた例は,塩素を用いた太陽ニュートリノ実験です。さらに低い閾値が,標的にガリウムを用いることによって得られました。71Ga + ν → 71Ge + e の反応はたった0.233MeVという低い閾値を持ち,ppニュートリノ(図6を参照)になお一層の感度があります。反応によって作られた同位体は不安定で,もとの原子に崩壊して戻ります。生成物を抽出し,これらの崩壊を検出することでニュートリノが計数されます。

放射化学的実験では,標的元素(普通C2Cl4やGaCl3のような化合物に化学結合していますが,SAGE実験のように純粋な液体ガリウムを使った例もあります。)は生成される同位体の半減期と同じくらいの期間ニュートリノに照射されます。生成同位体はその後標的元素の入ったタンクから抽出され,放射性崩壊の数が計数されます。(抽出は塩素を使った実験では生成同位体が不活性ガスなので比較的単純ですが,ガリウムを使った実験ではかなりの困難を伴います。)ここでは抽出の効率が非常に高いことが不可欠で,典型的には何十トンもの元の化合物から数個の生成原子を抽出することになります。

この簡単に述べた技術的概要から明らかなように,放射化学的実験は方向に対する感度が全く無く,エネルギーも(反応の閾値よりも大きいという以上のことは)測定できず,また時間分解能も(せいぜい週単位にしか分からず)低くなります。したがって,この手法は低い閾値が決定的に重要な場合への応用,実際には太陽ニュートリノ実験にのみ使われています。

放射化学的実験の例として,Homestake(レイ・デービスによる実験;塩素)やSAGE(ガリウム),GALLEX/GNO(ガリウム)があります。

液体シンチレーター実験

ニュートリノは液体シンチレーター検出器を使って初めて発見されたこともあり,液体シンチレーターはニュートリノ検出器として由緒あるものとして挙げられます。それらは主として陽子の逆β崩壊 νe + p → e+ + n を行う反電子ニュートリノに感度があります。液体シンチレーターは有機化合物であるので,そこにはこの反応の標的として振る舞う水素原子核が多く含まれています。陽電子がまず対消滅して2個のガンマ線を生成します。中性子は短時間(数マイクロ秒から数百マイクロ秒)の後に原子核に捕獲され,もう一つのガンマ線信号を生成します。(いくつかの実験では,中性子の捕獲率を上げるためにガドリニウムやカドミウムなどの元素が混ぜられます。これらはともに低速中性子に対して非常に高い親和力があります。)この即時信号(そのエネルギーは反ニュートリノのエネルギーを与えます)と遅延信号(そのエネルギーは中性子を捕獲する原子核に特徴的-水素への捕獲では2.2MeV-です)の同時計数は,実験でバックグラウンドを効率的に除くことを可能にします。

液体シンチレーター検出器は高い時間およびエネルギー分解能を持っていますが,方向の情報は保存されません。それらは普通反電子ニュートリノ検出器として考えられていますが,電子散乱 ν + e → ν + e を通して電子ニュートリノにも感度があります。Borexino実験ではこの反応をB-8太陽ニュートリノの研究のために使っています。典型的には数MeVという極めて低いエネルギー閾値を持っているため,原子炉ニュートリノ実験に広く用いられています。

液体シンチレーターを使った実験の例としては,Borexino (太陽ニュートリノ実験), KamLAND (原子炉ニュートリノ振動実験),MiniBooNE (加速器ニュートリノ振動実験),SNO+(SNO実験の機材を用いた液体シンチレーター実験で,建設中)があります。

飛跡検出器実験

飛跡検出器は荷電カレント反応で生成された荷電レプトンの飛跡を,それらが引き起こしたイオン化やそれらが付与したエネルギーによって再構成します。磁場をかけることで粒子の飛跡を曲げ,荷電粒子の運動量と電荷の符号を再構成するのを可能にします。これらの検出器は高エネルギーニュートリノには最良の手段で,なぜなら粒子が検出器中を飛ぶ距離はエネルギーが増えるとともに長くなり,長い飛跡ほど容易に再構成ができるからです。同じ理由で,(明確な飛跡を残しながら貫通する粒子である)ミューオンに対しての方が,(密度の高い物質を通るときに電磁シャワーを生成する)電子に対してよりもよく機能します。シャワーはミューオンの飛跡とは異なって見えるので,飛跡検出器はミューオンと電子を分離するのに向いています。電子と光子を分離する能力は,検出器の特徴に依ります。(光子もまた密度の高い物質中でシャワーを起こすので,固体でできた検出器は光子を電子と分離するのには向いていません。一方,光子や電子がシャワーを起こさないガス検出器では,電子はガスをイオン化しますが光子はしないので,それらを容易に分けることができます。

他のニュートリノ検出器と比べて,飛跡検検出器はATLASCMSなどの従来の高エネルギー物理学実験に非常に似ています。しかしながら,この類似は少し誤解を招く恐れがあります。ほとんどの素粒子物理学実験において,反応は実験装置の中心領域の小さく明確な部分で起こります。したがって,このことを利用して層構造の検出器がデザインされ,そこでは,反応点近傍に高分解能の飛跡検出器が置かれ,外側には精度が若干悪くても価格の安い大きな検出器が置かれます。ニュートリノ実験では,反応点は検出器のどこでも起こり得ます。したがって,これを克服するために検出器は必然的に複数の異なる技術を組み合わせたデザインとなります。

飛跡検出器は,異なる事象のトポロジーを区別し複数の粒子を含む事象を再構成するのに向いています。(例えば,νμ + p → μ + n + Nπ, N ≥ 1) これらはエネルギーの高いニュートリノビームでより起こりやすくなります。

飛跡検出器の例は,MINOS (ニュートリノ振動実験用飛跡検出型カロリーメーター),MINERνA (ニュートリノ反応測定用シンチレーター飛跡検出器), ICARUS (ニュートリノ振動実験用液体アルゴン飛跡検出器), T2K ND280前置検出器(T2K実験ビーム測定およびニュートリノ反応測定用のシンチレーター飛跡検出器とガス飛跡検出器)があります。

原子核乾板

タウ粒子の崩壊は極めて短い時間で起こり,それを明確に同定することは難しいので,タウニュートリノからの荷電カレントの検出はとりわけチャレンジングです。グランサッソ地下実験施設のOPERA実験やフェルミ加速器研究所のDONUT実験は,どちらも長く使われていなかった原子核乾板の技術をよみがえらせてこの問題に取り組んでいます。

原子核乾板は,簡単に言うと写真フィルムの感光体を薄く塗る代わりに厚板にしたもので,これにビーム照射を行います。荷電粒子の通過によって生成されたイオン化が乾板の乳剤中で化学変化を引き起こし,乾板を現像したときに飛跡として目に見えるようになります。粒の細かい乳剤を使うと,飛跡の位置をマイクロメートルの精度で測ることができ,極めて短寿命の粒子の崩壊を再構成するのに理想的です。

原子核乾板は素粒子物理学の初期の研究に広く使われました。確かに,放射能の発見は写真乾板が放射線によって曇ったことがきっかけだったので,その意味では原子核乾板はまさに最初の粒子検出器だったと言えるでしょう。しかし,それらは以下の理由で最先端から外れてしまいました。

  • リアルタイムではない: 原子核乾板を取り出して現像するまで,何が得られたのか分かりません。
  • 本質的にデジタルではない: 原子核乾板のスタックをスキャンしてデジタル化するには時間がかかり困難です。
  • トリガーできない: 原子核乾板を粒子が通り抜けて飛跡を残したら,その粒子が興味の対象であろうとなかろうと飛跡はそのまま残ります。
  • 一度きりしか使えないデバイスである: 一度スタックを取り出して現像すれば,それは再び使うことができません。もしデータ収集を続けたければ,新たなスタックを作って設置しなければなりません。

これらは非常に不利な点で,LHCのような高いレートの環境では致命的です。しかしタウニュートリノを検出する実験では,これらはそれほど重大ではなく,原子核乾板の飛跡検出の優れた精度はそれだけの価値があると考えられました。事実DONUT実験ではその通りになり,発見すなわちタウニュートリノの最初の直接観測に裏付けされています。

水チェレンコフ検出器実験

何ものも光よりも速く進めないことはよく知られた自然の法則です。しかし,これは真空中での光の速度に関してのことです。光がガラスや水のような透明な媒質を通過するときには,その媒質の屈折率に応じて遅くなります。水は屈折率が1.33なので,水中での光速は真空中の0.75倍になります。粒子は屈折率の影響を受けないので,真空中を光の0.99倍の速さで進む粒子は,それが水中を進む時にはそこでの局所的な光速よりも速く進むことになります。

Diagram of Cherenkov radiation

図7:チェレンコフ放射の幾何学的形状。粒子は屈折率nの媒質を速さβcで右に進んでいる。チェレンコフ円錐の開き角の半分θはcos θ = 1/nβで与えられる。多くの場合,粒子は極めて相対論的に扱うことができ,β~1である。このとき開き角は媒質にのみ依存し,cos θ = 1/nである。図はWikimedia Commonsから引用。

音速よりも速く飛ぶ飛行機は音の衝撃波を出します。同じように,媒質中をそこでの光速よりも速く進む粒子はいわゆる“光の衝撃波”を放出し,それはチェレンコフ放射として知られるコヒーレントな円錐状の青い光です。粒子は円錐の軸を下るように進むので,もしその円錐が再構成されれば,粒子の進行方向が測定できます。

ニュートリノ検出のための水チェレンコフ検出器は以下の2種類に分かれます。

検出器が密に配置された人工タンク(スーパーカミオカンデ,SNO)
水は光電子増倍管が並べられたタンクに入れられます。ミューオンや電子によって生成されたチェレンコフ光は,信号があった光電子増倍管を連ねたリングとして再構成されます。リングの見かけの様子はその元となった粒子を同定するのに使われます。ミューオンはリングの生成にそれ自身の1つの粒子しか関与せず,輪郭が明瞭なリングを作りますが,電子(や光子)は電磁シャワーを作り,シャワー中でほぼ平行に進む電子や陽電子が輪郭のぼやけたリングを作ります。これらの検出器のエネルギー閾値は約1MeVです。
検出器が疎に配置された自然水(ニュートリノ望遠鏡)
非常に大きな体積の自然水に,光電子増倍管が(端の部分に集中的ではなく)その体積全体にまばらに配置されます。円錐の形状はあらわには見えませんが,それぞれの光電子増倍管がパルス信号を記録した時刻を使って再構成できます。(これらの検出器は高エネルギー粒子のみを検出するので,円錐の開き角はあらかじめ分かっています。)検出器のエネルギー閾値は光電子増倍管の配置間隔に依りますが,通常は(数十から数百GeVと)非常に高くなります。検出器は電子よりもミューオンを非常に精度よく再構成します。それは,ミューオンが長いまっすぐな飛跡を作るのに対し,電子は極めて狭い範囲にその全てのエネルギーを落とすので少ない光電子増倍管でしか観測できないからです。

検出器が密に配置された水チェレンコフ検出器は,1960年にフレッド・ライネスによってニュートリノ検出器として予見されましたが,その先駆けとなったIMBやカミオカンデ(ともに超新星1987Aを観測したことで知られる。)はもともと陽子崩壊検出のための検出器として考案されました。当時,素粒子の大統一理論は陽子がe+ とπ0に崩壊(もちろん極めて長い寿命で)することを予言しました。π0はすぐさま2個のガンマ線に崩壊するので,これは水チェレンコフ検出器にとって理想的な崩壊で,最終的には容易に識別できる3つのリングという信号を生成します。陽子のこのチャンネルへの崩壊寿命は今では8.2×1033 年よりも長くなり,陽子崩壊の観測は首尾よくはいきませんでしたが,実験家たちはこれらの検出器が太陽ニュートリノや大気ニュートリノ,超新星ニュートリノを検出するのに効果的であることを示しました。

水チェレンコフ検出器は,荷電カレント反応からの電子やミューオン,またはニュートリノ‐電子弾性散乱からの反跳電子を検出することができます。太陽ニュートリノに対しては後者の反応が支配的で,一方高エネルギーニュートリノに対しては前者の反応がより重要となります。ニュートリノ‐電子弾性散乱は全てのタイプのニュートリノ‐に対して等しく感度があるはずと思われるかもしれませんが,実はどのタイプのニュートリノよりもずっと電子ニュートリノに対して高い感度があります。これは電子ニュートリノと電子が中性カレント反応(ニュートリノと電子がそれぞれそのまま形は変えずに運動量を交換する)と荷電カレント反応(ニュートリノは電子に転換し,電子はニュートリノに転換する)の両方で散乱が起こるためです。この2番目の寄与の存在は電子ニュートリノに対してだけ可能で,反応が起こる可能性を大きく増加させます。したがって水チェレンコフ検出器は,太陽ニュートリノのエネルギーでは基本的に電子ニュートリノ検出器となり,より高いエネルギーでは電子ニュートリノもミューニュートリノもともに検出(さらにそのタイプの同定も)します。(タウニュートリノは次の2つの理由で難しくなります。1つはタウ粒子が重く,チェレンコフ放射を出すエネルギー閾値がずっと高くなることです。電子の場合は0.77MeV,ミューオンでは160MeVに対し,タウ粒子では2.7GeVです。2つ目の理由は,タウ粒子が極めて短寿命で,チェレンコフ光を多く放出するほど十分遠くには飛ぶことができないことです。)水チェレンコフ検出器は,検出する粒子に対して高い時間・エネルギー・方向の分解能を持ちます。(低エネルギーのニュートリノに対しては,反応の生成粒子が親粒子と全く同じ方向には飛ばないため,ニュートリノの方向の分解能は少し低くなります。)

検出器が密に配置された水チェレンコフ検出器の例は,スーパーカミオカンデ(太陽ニュートリノ,大気ニュートリノ,K2K実験とT2K実験の後置検出器),IMB(陽子崩壊実験(1979-1989),超新星1987Aからのニュートリノを検出した2つの水チェレンコフ検出器の1つ)があります。

ニュートリノ望遠鏡の例には,IceCubeANTARESBaikalがあります。

重水チェレンコフ検出器: SNO

1980年代の中ごろまでに太陽ニュートリノ問題の存在が明らかになりました。太陽内部の理論的モデル,すなわちジョン・バコールと共同研究者たちによる標準太陽模型は,ニュートリノの観測率を除く全ての観測結果に一致していましたが,そのレイ・デービスの実験で見出されたニュートリノ観測率の問題を解決しようとする全ての試みは失敗に終わっていました。その後数年にわたり,太陽ニュートリノの欠損が,最初にカミオカンデ水チェレンコフ実験で,その後GALLEXやSAGEのガリウム実験で確立されました。観測結果からは,問題の源はニュートリノの振る舞い,特にニュートリノ振動にある可能性が極めて高いと思われました。しかしながらその決定的な証拠が無く,電子ニュートリノが欠損していることは証明できても,それらが他のタイプのニュートリノに変化していることを示すことはできませんでした。必要だったのは,荷電カレントと中性カレントそれぞれの反応率を1MeVというミューニュートリノが荷電ミューオンに転換するには低すぎるような領域で直接比較することができる検出器でした。

1984年,ハーブ・チェンは重水がその問題を解決する可能性を示唆しました。重水D2Oは通常の水素をそれより重い同位体である重水素(2HまたはD)に置き変えたもので,その原子核には通常の水素に含まれる陽子に加えて中性子を含んでいます。重水素は極めて弱く束縛されているので,粒子が衝突すれば容易に破砕します。鍵となるのはこの破砕が次の異なる2通りで起こることです。

  • ν + 2H → p + p + e (荷電カレント): 電子ニュートリノが入射する場合にだけ起こる。
  • ν + 2H → p + n + ν (中性カレント): 全てのニュートリノに対して起こる。

重水素原子核の束縛エネルギーはたった2.2MeVなので,これよりの大きいエネルギーを持つニュートリノであればどのタイプでも理論的に2番目の反応を起こすことができます。2つの反応は,原子核が中性子に捕獲させるのを検出することで区別することができます。ただし,D2Oは中性子を捕獲するのにあまり向いていません。(そのため原子炉の中では中性子流束を減らさず減速させるのに使われています。)しかし,重水には中性子の捕獲率を向上させる他の物質を混ぜています。(SNOでは普通の塩であるNaClが使われており,中性子はすぐに塩素35に捕獲されます。)

重水素は非常に稀な水素の同位体なので,重水は価格が高く,入手が困難になっています。幸運なことに,カナダの原子力発電業界ではCANDU原子炉で重水を使っており,SNOコラボレーションはカナダ原子力公社から1000トンの重水を借りることができました。貸与は一定期間に限られたので,これがSNO実験の実験期間を厳しく制限することになりました。現在は終了しています。重水の有感領域と軽水の外側検出器(貫通ミューオンと他のバックグラウンドを除くために使用)が入っていた大型容器は,SNO+液体シンチレーター実験によって再利用されています。

重水チェレンコフ検出器は低エネルギーニュートリノに対してはほぼ完璧な検出器ですが,唯一の欠点はエネルギー閾値が太陽ニュートリノに対して理想的な値よりも高いことです。(B-8ニュートリノとhepニュートリノしか観測することができません。)原理的に不利な点は,どうしてもキロトンクラスのD2O検出器を作れないことです。